アート・レジデンシーの逆流

Angga Wijaya

レジデンス・プログラムにより、アーティストが他の地域で実践を探求し、対面でミーティングを行い、新しい人と出会い、新しい場所を体験することができます1。 現代アートの実践としてのアート・レジデンシーの出現は、領域間の境界を曖昧にするグローバル・アートの言説と切り離すことはできません。それは私たちの地方を他の地域に結びつけ、地元の視点をグローバル・アートの世界に繋げ、異文化交流を行うという野心を持っています。

ただし、この場合の地域は、他の地域との境界にある単に計り知れない地理的空間や場所ではなく、文化的な意味での地域を定義しています。しかし、滞在中に想像する土地勘とは、どのようなものなのだろうか?他の地域でしか遭遇しないものなのだろうか?また、新しい場所での生活を経験したときにしか感じられないものなのだろうか?それは私たち自身の場所にも存在しているのだろうか?

レジデンス・プログラムは、アーティストが世界を探索し、ある地域から別の地域への旅をし、多様でつながりのある文化や社会・地政学的問題を目の当たりにすることを可能にしています。アート・レジデンシーは、アーティストが芸術活動を探求するために、一つの場所だけ集中しないように、境界を超えたモビリティを生み出してきました。一例として、Irwan AhmettとTita Salinaの長期のアートプロジェクト「The Ring of Fire」(2014年~現在)があります。彼らは、ニュージーランドからチリまでの東南アジア全域に広がる、自然災害や、社会正義、表現の自由、人権などの問題が発生しやすい地域を巡っていました2。

 アーティストと地域との関係は、アート・レジデンスにおいて重要な側面となり、アーティストが周辺住民との関わりや共同作業を可能にし、強い関係を築くことで、彼らの芸術活動を探求するための主要な益になります。滞在期間は、その地域と強い関係を構築するために、主要な側面の一つです3。定期的に行われるアート・レジデンスは、アーティストに相対的な時間を与えるものであり、通常は1ヶ月、3ヶ月、半年、1年といった期間で行われます。深い関係を築くために、そこの地域に行って何かに参加したり、協力したりするだけでは十分ではありません。継続的時間と空間で一貫して生活するプロセスを経験し、その一部にならなければならないのです。

もう一つの例を挙げると、比較的長い時間をかけるMoelyonoの作業方法があります。彼は社会の日常的な問題について、深い理解を得るように徹底的な対話を行ったりしました。この方法は、「啓蒙芸術」、「コミュニティ・アート」、「参加型アート」など、様々な用語があり、ヨーロッパやアメリカで関係性の美学の概念と一緒に読まれることが多いです。Moelyonoの作業方法を見ると、各カテゴリーのすべての側面が芸術活動で実践されているため、用語に関する論争はすべて崩れ始めます4。

インドネシアにおけるアートの実践は、過去数年間で変化しています。美術館、博物館、教育スペースだけではなく、コミュニティや社会的にも成長し、日常の習慣にも溶け込んでいます。もはや作品という正式なオブジェに結び付けられていないプレゼンテーションの形式で、現在のアート実践は様々な可能性から活性化に火をつける力を持っています。アーティキュレーションの決定要因は空間とその住民の文脈から来る可能性があるため、アート実践の変化はもはやアーティストをアイデアの中心に置かなくなっています5。

しかし、この世界規模のパンデミックの影響で引き起こされた現在の危機的な状況によって、アーティストは異なる挑戦に立ち向かわせています。私たちの普段の集まりは、ウイルス感染の影響を受けやすい活動になり、その結果は、アート・レジデンス・プログラムでの対面での出会いが制約されることです。この変化している世界の中で、守らなければならない緊急対策やガイドラインがあります。私たちは、ソーシャルディスタンスや自粛することで、他の人と安全な距離を置かなければなりません。それで、予測できない世界をどのように想像するのでしょうか?このパンデミックの影響で、どのように規律を身につけるのだろうか?

身体活動がオンラインに変化されるため、空間と時間は仮想現実となります。現在の世界は、デジタル時代の変化をますます受け入れています。仮想現実とその全体的なアルゴリズムは、アート・レジデンス・プログラムのもう一つの分野になるかもしれません。パンデミックの前に、このようなバーチャル・レジデンス・プログラムは、インドネシアのMahardika Yudhaが「OK」というテーマにし、「OK. VIDEO – INDONESIA MEDIA ARTS FESTIVAL」を開催したことあります。インターネットやソーシャルメディアを通じて、「pangan(食糧)」という話題でコミュニケーションを探求していました6。そうであれば、現在の現実をどのように定義するのだろうか?バーチャル・レジデンスという概念は、どうようにして現実になれるのだろうか?バーチャル・リアリティにおける交流とは、どのようなものなのだろうか?バーチャル・リアリティに応えて、アートの実践にはどのような探求が生まれるのだろう?

その上、レジデンス・プログラムには、滞在中のアーティストのニーズや持続可能性を満たし、旅費、宿泊費、生活費、作品制作の費用など、アート実践を探求するプロセスのために経済的手段もあります。今の制限されている状態の中で、これらの経済的手段はどのように使用されているのだろうか?また、資本主義経済システムに依存しないように、経済的手段を実験することはできないのだろうか?現在と未来の不安や経済危機に対して、アートレジデンスの経済的手段は共有された持続的な資源に再現できないのだろうか?7

自分の生活を支えながらアート活動を続けようとするために、レジデンシーの経済的手段を利用してみた友達8のことを思い出しました。彼は、Resartist.orgやTransArtistsなどのアート・レジデンス・プログラムに関する情報を提供しているサイトを野心的に検索し、様々な分野のレジデンスの条件に応じた提案を提出していました。何百もの種をまくように、いくつかの提案は応募先の機関に受け入れられました。

彼のプログラム中に制作した作品は、このアーティストやあのアーティストに少し似ているところがあります。確かに、アートのオリジナリティという議論は、今日ではもはや関係ありません。彼がした適応の実践の中には、興味深い点は何ですか?彼のプロジェクトの提案は、他のアーティストからのアイデアを借り、その後に各レジデンスの地域の土地柄と結びつけました。

 レジデンスのプロジェクト提案を採用するという実践は、相互に合意されたようなオープンソースのプラットフォームの形を通じて、アーティスト同士がプロジェクト提案にアクセスし、その地域のニーズに応じてどの提案を採用するかを検討できるようになるとしたら、どうだろうか?その一方、この実践は自分の利益のために利用され、地域はただ単にエキゾチックな目的地として見られるだけになってしまいます。

 アクセス可能なオープンソースを作ることで、アーティストと地域に根ざした知識や経験との間のアイデア交換や、地域の緊急性そのものの重要な対話が可能になります。私たちは自分の地元を見て、それにどのようなアイデアが適応できるのかを見ることができるかもしれないし、その逆もまた然りです。想像されたアイデアを通して、どのようなロカリティがそのようなアイデアにふさわしいのかを見ることができるかもしれません。

 個人的にも、集団的にも、私たちはその文脈や緊急性に応じてロカリティを包括的に移動することができます。しかし、採用の実践を共有するための意識に上るには、信頼と協力が必要です。私たちはこの人生をずっと競争としか見ていませんが、今はお互いの関係を強めるときです。このような危機的状況の中で、私たちは連帯を必要としています。9

 この方法における民主化は、様々な主体が平等にアクセスできる機会も提供します。コスモポリタン(国際人)とは、世界を簡単に旅できるようにレジデンス・プログラムを利用する遊牧民アーティストの現象として単に定義されているのではありません。Brigitta Isabellaの「アーティストはなぜ、どのように旅をするのか」という質問は、重要な意味を持つようになりました。アーティストによる国やパートナー機関の選択は、常に政治姿勢に基づいて決められています。10

ロカリティの緊急を要することで、主流の外にある多様なナラティブや問題のためのスペースを提供する可能性があります。さらに、アーティストとして、またその地域の一部として、自分自身の芸術実践と地域の問題との関連性を見出すことにも挑戦することができるでしょう。アーティストを地域そのものの一部として捉えることで、アーティストの能力レベルだけでなく、住民の視点でも、アートの実践を可能にします。

 アート・レジデンス・プログラムは、単に他の地域や新しい場所に住むだけではありません。パンデミックの影響でいくつかの地域がロックダウンされ、同時に逆の流れが現れ、人間は自分たちの地元を振り返るようになります。ある場合で、彼らを故郷に連れ戻したり(農村化)、精神的なニーズへの憧れを高めたり、伝統を辿ったり、生物多様性との相乗効果をもたらしたりする可能性があります。他の場合で、人々は自粛生活を利用することで、今までの生活パータン、生活空間、そして現実との関係を熟考する機会になります。

このような逆の流れは、今日のアートの定義を表しています。アート・レジデンシーは、芸術だけでなく、社会における知識の発展のためでもあります。アート・レジデンス・プログラムは、なぜアイデアが特定のローカル、空間的、および持続的な文脈の中で顕在化されなければならないのかを見つめ直し、ロカリティと現在の現実の意味を再評価する方法になり得るのでしょう。採用したり、採用されたりするという実践によって、アーティストにレジデンス・プログラムからの異なる視点を与える期待を寄せています。

 

Angga Wijaya (アンガ・ウィジャヤ)

2021年1月

引用文献

1. レジデンシーの定義については、TransArtistを中心としたレジデンシーに関する様々な情報からまとめめました。参考:https://www.transartists.org/residency-history,(参照2021‐01‐09)

2. Artist in Residence Irwan Ahmett Tita Salina, NTU Centre for Contemporary Art Singapore.http://ntu.ccasingapore.org/residencies/irwan-ahmett-tita-salina/,(参照2021‐01‐16日)

3. Alia Swastika “Dari Penyadaran ke Pengarusutamaan”, Unjuk Rasa: Seni – Performativitas – Aktivisme (From Enlightenment to Mainstreaming, Demonstration: Art—Performativity—Activism), Yayasan Kelola, Jakarta, 2018, p. 51

4. Ibid.

5. この読書は、Martin Sumanjayaの論文「Dorongan ke Arah Estetika Partisipatoris」(The Drive Towards Participatory Aesthetics)Indroprogress.com、2016 ‐02‐17からまとめたものです。参考: https://indoprogress.com/2016/02/dorongan-ke-arah-estetika-partisipatoris/ (参照2021‐01‐16)

6. この情報は、Moch. HasrulとHaviz Maha (ニューメディア・アーティスト)から得ました。

7. Ruang RupaがDocumenta 15で提供した「Lumbung」のコンセプトをチェックしてください。参考:https://www.biennialfoundation.org/2020/06/documenta-fifteen-and-lumbung-practice-announcement-of-the-first-lumbung-members/ ,(参照2021‐01‐10)

8.彼の作品のオリジナリティを評価しないことを目的として、名前を言及することはしません。

9. Yuval Noah Harari, "Dunia Setelah Virus Korona"(コロナウイルス後の世界)、Re.Goblog、2020‐03‐20。参考: http://re-dot-go.blogspot.com/2020/03/dunia-setelah-virus-korona.html (参照2021‐01‐10)

10. Brigitta Isabella, "Mobilitas Gelandangan Kosmopolit dan Strategi Kebudayaan Kita"(コスモポリタン狂と私たちの文化的なストラテジー)、このスピーチ原稿は、2017年12月7日(木)にCemeti - Institute for Arts and Societyで開催されたDana Umum & Kesempatan / Artist Job Fairのオープニングで読まれました

Angga Wijaya(アンガ・ウィジャヤ)は「Serrum」と共同で活動しています。Gudskulで、「Collective Arts Review」という科目を教えたり、アート・コレクティブの実践の発展をマッピングしたりしています。キュレーターとしての活動で、コミュニティワーク、社会的ダイナミクスや社会と交差するアートプロジェクトを基づいた実践を行っています。彼も、都市部と農村部でアート活動を行う集団である「Kolektif Kurator Kampung」の一員です。アンガは、控えめな人なのですが、カラオケに連れて行けば、彼の中にあるカラオケ王のチャームであなたを魅了します。